まず、平成18年度の研究において開発したオルト(シリルメチル)ベンジル炭酸エステルを基質として利用したパラジウム触媒による形式的オルトキノジメタンとオレフィンとの[4+2]環化付加反応を基盤とし、不斉配位子でパラジウム触媒を修飾し、触媒的不斉[4+2]環化付加反応の開発を目指した。市販されている各種不斉配位子とパラジウム触媒前駆体Pd(π-C_3H_5)Cpを混合して不斉触媒を調製し、それを用いて炭酸メチル[2-{(トリメチルシリル)メチル}ベンジル]とアクリル酸メチルとの[4+2]環化付加反応を試みたが、残念ながら不斉配位子Chiraphosを用いた場合に、最高10%eeの不斉収率を達成するにとどまった。この反応においては触媒活性が配位子の構造に大きく依存しすぎており、不斉配位子の構造が少し変化するだけで反応が停止することが問題であることが明らかになった。 次に、有機スズ化合物の利用を検討し、オルト(スタニルメチル)ベンジル炭酸エステルとアクリル酸メチルとの[4+2]環化付加を試みた。その結果、この有機スズ化合物は対応する有機ケイ素化合物よりも反応性が高く、トルエンのような非極性有機溶媒中でも問題なく目的の反応が進行することがわかった。同時に有機ホウ素化合物の利用を考え、オルト(ボリルメチル)ベンジル炭酸エステルの合成を試みたが、ベンジルホウ素部位の反応性が高すぎるために、この化合物の単離が不可能であることがわかった。
|