研究概要 |
プロトン、温度、ゲスト分子などの外部刺激に応答してその結晶構造や分子構造を可逆的に変換することのでき、かつ極めて容易に結晶化することができるドナー-アクセプター共役接合分子を有機FET(電界効果トランジスタ)のゲート材料として用い、その新規な系のFET特性を明らかにする。さらに、この分子の外部刺激応答性を利用した外場制御型分子FETとしての性能を評価する。 分子材料として、1,4-diferrocenylethynylanthraquinone(1,4-Fc_2Aq)について研究を行った。1,4-Fc_2Aqは結晶状態においてナノ孔構造を持つことが明らかとなった。そこで、1,4-Fc_2Aqの結晶状態におけるホスト能ならびに溶液状態、固体状態でのプロトン応答性について検討を行った。その結果、1,4-Fc_2Aqはプロトン応答性を示し、さらにプロトン付加体が固体状態において温度に依存した電子状態の変化を起こすことが明らかになった。また1,4-Fc_2Aqは結晶状態においてゲスト分子をとりこんだ細孔を持ち、ゲスト分子の可逆な吸脱着ならびにそれにともなう集積構造のD-A⇔D-A-A間での変化がおきることが明らかになった。すなわち1,4-Fc_2Aqは種々の外部刺激に対し分子内ないし分子間におけるD-A間の電子状態を変化させる分子であるといえる。 次に、基板上での結晶転移の観察を目的として平滑性の高いSi-SiO_2基板を用い、真空蒸着法により1,4-Fc_2Aqの基板上への結晶化を試みた。まず、再結晶により得られた1,4-Fc_2AqCH_2Cl_2の単結晶を加熱真空引きしてゲスト分子を脱離させた後、すりつぶして粉末粒径を減少させ、真空蒸着を行った。この基板をXRD測定により評価したところ薄膜はアモルファス状態であった。しかし、この薄膜をTHF雰囲気下に1分程度放置したところゲスト吸着が進行し、結晶が生成した。さらにこの基板を加熱したところゲストの脱離が進行し、XRDパターンが変化し、可逆な結晶転移が基板上でも進行することが判明した。このときの基板を、顕微鏡で観察したところ直径10μm程度のドメイン構造をもつことが判明した。
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