本萌芽研究では、アミド基含有光学活性4座配位子からなる遷移金属錯体の配位立体化学を活用して、錯体ヘリシティーの構築とアニオン刺激による反転現象を基点としたペプチドらせんへのヘリシティー情報の伝達と増幅を行い、さらに中心金属イオンの配位子交換速度の違いを活用したペプチドらせん情報の『記憶化』を目指した。本年度は、以下の点において成果を収めた。 (1)アミド基含有光学活性4座配位子を含む金属錯体のヘリシティー情報の記憶化と反転スイッチング アミド基含有N202型光学活性4座配位子を用いて、複核Cr(III)錯体をマイクロ波照射により合成した。得られたらせんダイマー錯体は左巻きと右巻きの両方を分子内に含むメソ型らせん構造であった。この錯体は熱力学的には不安定であるが速度論的には安定であるため、らせん情報を「記憶した」錯体であった。この錯体にマイクロ波を照射すると熱力学的に安定な構造へらせん方向の反転スイッチングがおこった。このように、置換不活性な金属錯体を用いることで、らせん構造の記憶化とマイクロ波刺激による反転制御が可能になった。 (2)ペプチドらせん単核金属錯体の構築と反転制御 ペプチド鎖を末端にもつ配位子から単核金属錯体を合成した。錯体形成に伴い、金属中心の立体選択的なヘリシティー情報をアキラルなペプチド鎖に伝搬・増幅できた。さらに、金属イオンまわりのヘリシティーをアニオン刺激により反転させるとペプチドらせんの向きも反転できた。また、中心金属イオンの種類を変更することで、反転速度の精密制御も可能であった。このように、金属錯体のキラル情報をペプチド鎖へ伝達し、らせん構造を制御できることが明らかになった。
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