研究概要 |
感度,再現性ないしは情報量を画期的に向上できることを目指し、本研究では、超音波を用いた新規電気化学計測技術の開発を行った。本年度の研究成果を要約すると以下の通りである。 1)超音波対流変調ボルタンメトリー(ultrasonic modulated hydrodynamic voltammometry)の開発と微少量試料分析への応用 ここでは,超音波発振器振動ホーンの先に微小電極を取り付けた超音波電極を試作し,超音波の出力を"on","of"で制御できる超音波対流変調ボルタンメトリー計測システムを開発した。超音波振動による電極表面における物質移動速度(拡散層の厚み)は変調されて,電解電流の中に物質移動に関係した電流成分と物質移動に関係しない電流(バックグラウンド電流)を分離することができる。超音波照射で得られた変調電流幅は従来回転ディスク電極に比べてはるかに大きいので,高感度化を容易に達成できた。本システム操作は簡便で、体積約200μlまでの微少量試料も分析できるため、その実用性が認められた。 2)超立波電気化学発光(sono-electrochemiluminescence)計測システムの構築 ルテニウム錯体Ru(bpy)_3^<2+>とトリプロピルアミンを用いたミクロ電気化学発光システムにおいて、超音波照射により発光強度の増感や分析結果の再現性は著しく改善されたことが見出され、そのメカニズムの解析を行った。 3)超音波反応場におけるハーモニック成分の電気化学的検出 超音波反応場中で得られたボルタモグラムの電流信号に交流成分が検出され、超音波の出力がキャビテーション閾値を超えると,刺激する基本振動数(f_0)の他に,ハーモニック成分(2 f_0,3 f_0,4f_0)が含まれていることが分かった。高調波の発生機構については、有限振幅超音波が正圧と負圧の部分の伝搬速度の違いによって波形の歪みが生ずることやキャビテーションで発生したマイクロバルブの非線形振動などの要因が考えられるが、電気化学計測により超音波反応場におけるこのような非線形現象を実測することができた。電気化学測定は、超音波反応場における物質移動、化学反応と高調波成分を含めた多次元の情報量を得ることが可能なので、今後の展開が期待される。
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