脂肪族アルコールの低圧気体試料に、自由電子レーザーによる中赤外パルスレーザー光を照射すると、分子内の炭素-酸素結合が選択的に開裂し、対応するアルケンが収率良く生成することが、明らかとなった。 対応する化学変換を従来既知の反応により遂行するには、強酸を添加し、加熱する必要があるが、本法では、酸などによる分子の活性化は必要なく、中性条件下、室温で速やかに進行させられることがわかった。 対応するアミン類およびハロアルカン類の化学変換においては、基質の反応性が、主として分子のサイズ(内包する共有結合数)に依存し、大きな分子では反応が進行しにくい傾向が認められるが、アルコールではこの傾向は顕著でなく、分子量の大きなアルコールも速やかに反応する傾向が認められた。 今回新たに見出した反応は、前例のない新規な有機合成プロトコルとなると期待される。 従来法に比べ、加熱を必要としないことおよび活性化剤を必要としないことから、環境負荷を伴わない、新規グリーンケミストリー合成法として、今後の発展が期待される。 一方、リモネンに対する中赤外パルスレーザー光の照射により、逆ディールス・アルダー反応が進行し、イソプレンが選択的に発生するが、これを適切なジエノフィルにより捕捉し、対応するシクロヘキセン誘導体を合成する試みについては、2-ブテンー3-オン、アクリロニトリル、およびアクリル酸エチルといった代表的なジエノフィルによる捕捉の可能性を検討したが、今回、対応する付加体を得るには至らず、今後検討を続ける。
|