有機合成には、有機溶媒による単相系反応が多く実施されているが、三相や四相の液体を組み合わせた多相系を活用した有機合成手法はほとんど開発されていない。本研究ではフルオラス溶媒やイオン液体などの新反応媒体は水やある種の有機溶媒と混和しないことから、この性質を活用し有機/フルオラス溶媒/イオン液体/水を多彩に組み合わせた様々な多相系多相系反応による新合成化学手法の開拓を行う。 本初年度においてはフルオラス反応媒体を用いる研究を中心に展開した結果、以下の研究成果が得られた。トリエチルアルミニウムとジヨードメタンはアルケンのシクロプロパン化試薬として用いられているが、発熱を制御するために注意深い滴下制御が必要とされる。そこでジヨードメタンの比重が1.74とペルフルオロヘキサン(1.67)より大きいことを利用し、トリエチルアルミニウムとアルケンを最上層にペルフルオロヘキサンを中層にジヨードメタンを最下層とする3相系で反応を行った。その結果、室温放置で最下層が消失し、シクロプロパン化が良好に進行した。数多くの反応例を検討しこの反応手法の一般性を確かめた。 一方、臭素を最下層とするアルケンのジブロモ化反応では、中層のフルオラス相への臭素の拡散が遅い欠点があった。フルオラス相に種々のペルフルオロポリエーテル(GARDEN HT135)を用いて、これを液膜とする反応系で検討したところ反応時間を半分に短縮することが出来た。つぎにペルフルオロポリエーテル(GARDEN HT 135)に臭素を飽和させ、400ミクロンの内径を持つマイクロミキサーの使用による反応の効率的な除熱を期待し、シクロヘキセンへの臭素付加反応をフロー系で行ったところ、臭素付加体が良好な収率で得られた。このような初年度の取り組みにより、次年度における多相系反応の研究展開への展望が大きく切り開かれた。
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