研究概要 |
光触媒反応は,光吸収により生じた励起電子と正孔により進行するが,それらの大部分は反応に寄与することなく再結合しており,その再結合の速度は結晶欠陥により支配されていると考えられている.したがって,結晶欠陥の密度は光吸収と同様に,光触媒反応における重要な物性である.従来,結晶欠陥の評価法としては,分光学的な手法がよく用いられてきたが,粉末試料のような強散乱体の光吸収の評価においては,光散乱が測定上の問題となり正確な測定が難しい.そこで,本研究では光吸収評価に光音響分光法を用いることによってこの点を克服し,光吸収特性および欠陥に起因した光吸収の評価を行った.この分光法は,励起種が脱励起する際に放出される熱エネルギーを音波として検出することにより,物質の光吸収を評価するというものであり,光散乱の影響を受けることなく,高感度かつ高精度の光吸収測定が可能である. まず,従来の光音響分光法を酸化チタン粉末に適用し,光吸収特性評価法をおこなうとともに,測定装置の妥当性を確認した.さらに,二重励起光音響分光法を用いることによって,酸化チタン粒子上で光触媒反応により生成した2種類の中間体に起因した過渡吸収を検出した.1つめは,酸化チタンに電子が蓄積することにより生じた3価のチタンイオン種に由来するものである.これは,酸化チタンの結晶欠陥を反映するものであると考えられており,光触媒活性との相関関係が報告されている.2つめは,捕獲正孔もしくは過酸化物種に由来するものであり,これが雰囲気の酸素との反応によって形成されたものであることが示唆された.これらの結果から,二重励起光音響分光法は実際の光触媒反応の条件に極めて近い場での酸化チタンの中間体を検出する手法であることを確認した.
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