C_<60>等の曲面π共役系化合物の存在とその物性がクローズアップされている。これらの性質を分子レベルで理解し発展させるためには、曲面π共役電子系における曲面芳香族性やConcave-ConvexおよびConvex-Convex相互作用等の分子間相互作用の解明が重要である。我々は、曲面π共役上に非局在化した電子スピンを有する空気中でも安定な開殻有機分子を設計・合成し、溶液状態および固体状態における性質を詳細に調査する手法を発案した。 これまでに曲面π共役系閉殻有機分子であるコラヌレンに着目し、6-オキソフェルダジルラジカルやイミノニトロキシドをコラヌレンに結合させた開殻有機分子を設計・合成・単離し、曲面π共役上にスピンが非局在化した安定な開殻有機分子の研究の端緒を開いた。本年度は、フェノキシルラジカル部位をコラヌレンに結合させた開殻有機分子を設計・合成・単離した。電子スピン密度分布のトポロジー的対称性からフェノキシルラジカル結合体では、それまでの分子システムに比べてより多くの電子スピンが曲面π共役系上に非局在化していることが判明した。また、曲面π共役型の中性ラジカルとしては初めての単結晶X線構造解析に成功し、磁気測定を行うことで、分子間の磁気的な相互作用について明らかにした。さらに我々は、フェノキシルラジカル部位を二つコラヌレンに結合させた中性ジラジカルの合成と単離に成功した。そして、分子内のスピン間相互作用や電子スピン密度分布、および単結晶X線構造解析による結晶構造の解明にも成功した。このような成果は、今後の分子設計および当初の研究目標の遂行に大いに貢献した。
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