本研究では、酵素分子に周期的な運動を強制的に起こさせる外部力として超音波を用いて酵素揺らぎを任意にかつ選択的に誘起し、酵素機能そのものを人為的に操作することを目的としている。 本年度は、照射超音波として、可聴領域を含む低周波と、数百kHz、さらにはMHzあるいは10MHz程度の高周波の超音波をパルス的に酵素溶液に照射する二つの方法により酵素活性制御の検討を行った。 低周波領域を発振する素子では発振時に熱が発生することがわかったが、温度の効果を超えて10KHz程度の音波がリゾチーム活性を向上させることがわかった。特に20℃程度の条件では、酵素に対する基質の拮抗阻害剤が音波の効果により脱離し易くなり、2.5倍程度活性が上がった。また同じ酵素反応系において、1MHz、および14MHzの高周波超音波をパルス的に照射した揚合、パルス頻度が100kHzでは活性が4割程度上昇し、300kHzでは逆に2割程度反応活性が抑制されるということがわかった。また、DNAポリメラーゼに対してもパルス超音波が、頻度依存的に酵素活性を変化させうるということも見出した。これは同じ物理的な摂動を用い、その時間スケールの変調によって、正にも負にも効果を分子論的に与え、酵素活性を任意に制御させることに成功した初めての例であり、酵素機能解明を目指した科学、もしくは酵素工学において独創的かつ重要な発見であると考えられる。
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