エピジェネティクスの一例として、ゲノム上のDNAメチル化が知られている。ゲノムの異常メチル化を簡便に検出する手法が開発されれば、腫瘍マーカーや抗癌剤感受性の指標として有用であると思われる。本研究では、メチル化されたDNAを特異的に認識する蛍光分子プローブの開発を目的としている。今年度は、水中でリン酸やカルボン酸を配位しうる蛍光性希土類錯体として、Eu^<3>+錯体([Eu(tpen)Cl_2]ClO_4)を合成し、そのDNA認識能を評価した。[Eu(tpen)Cl_2]ClO_4は水中において、水が配位したEu(tpen)(H_2O)_2として存在すると思われる。この水配位部分に、DNAのリン酸ジエステル結合が結合し、蛍光スペクトルの変化を期待した。 このEu(tpen)錯体は、水中にて260nm励起により、619および690nmに蛍光を示した。Eu(tpen)がDNAのリン酸ジエステル結合に結合することは、分子力場計算から予測された。しかしながら、期待したDNAメチル化による蛍光スペクトルの大きな変化は観察できなかった。次に、(本研究課題の本来の目的と離れるが)、同じ錯体を用いて、細胞表面における癌マーカーとして知られているポリシアル酸(コロミン酸)およびシアル酸の検出を試みた。Eu(tpen)のpH7緩衝水溶液にシアル酸やコロミン酸を添加すると、蛍光強度の大きな減少が見られた。濃度依存性の解析から、ポリシアル酸を2×10^3M^<-1>の会合定数で、比較的強く結合していることがわかった。一方、グルコース、グルコロン酸などの他の糖や、酢酸ナトリウムを添加しても蛍光強度が殆ど変化しないことから、この錯体はシアル酸を認識していると言える。本成果については、第27回日本糖質学会年会にて学会発表している。さらに、DNA球状集合体と各種蛍光色素との相互作用についての基礎的な知見について、Biomacromolecules誌に論文を発表した。
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