平成19年度は、トンネル構造型LiMn2O4と同型構造を有するバナジウム酸化物の研究に力点を移した。LiV2O4は通常の合成条件ではスピネル型構造で安定化する。このため、マンガン酸化物のトンネル型構造相転移条件とほぼ同じ条件で超高圧高温処理を行った。しかしながら、予想したトンネル型構造相転移は認められなかった。さらに厳しい熱処理条件での実験が必要と思われる。しかしながら装置の運用範囲を逸脱するため、実行は難しい。 次に、トンネル構造型NaV2O4の合成に取り組んだ。この物質は未知物質であるが、到達可能な超高圧高温条件内で合成可能であることがわかった。当初の目的は、Liイオン交換実験の母物質として活用することであったが、トンネル構造型NaV2O4は新物質であるため、イオン交換実験に取り組む前に、この新物質の基礎特性の評価を行った。 その結果、従来にない特徴を備えたハーフメタル物質であることがわかった。ナノスケールでハーフメタルと反平行ハーフメタルが交互に並んだ新しい電子状態になっており、現象的にもこれまでのハーフメタルと異なる性質を示す。この新物質は、これまでにない電子スピンの空間分布を有していることがわかった。この状態は学術的にかなり興味深く、新規スピントロニクス材料として期待できる。 平成19年度は全般として主にトンネル型構造を有するNaV2O4の研究に取り組んだ。今後はイオン交換法によるトンネル構造型LiV2O4の合成に力点を移す。
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