低温、低圧力のより穏和な条件で物質合成が可能な新たなプロセスの開拓は、既存の無機材料合成の高効率化や、従来法では合成が困難な結晶相の作製、および新規物質の発見につながることが期待される。化学反応は、反応に関与する原子間での電子の授受により生じる。本申請者らは、種々の元素からなる多元系無機化合物の合成において、電子が潤沢に供給される環境場を利用した新たな反応・合成プロセスが構築できるのではないかと考えた。この着想の元に本研究では、電子を容易に放出することのできるリチウムやナトリウムなどのアルカリ金属元素の融液や蒸気相を利用してSiを含む二元および多元系炭化物合成を試み、これらアルカリ金属元素媒体が合成反応に及ぼす効果を明らかにすることを目的とする。 本年度は、炭素原料として黒鉛とフラーレン粉末を用い、通常のSi粉末との混合物をNaフラックスとともに900-1000Kで24h加熱する実験を行った。その結果、フラーレン粉末原料を用いた混合粉体より、SiC粉末が合成された。X線および電子線回折の結果、得られたSiC粉末がβ型であることが示された。透過型電子顕微鏡により、数十nmオーダーの小さな粒子が集まった凝集体が観察された。SiC粒子の個数平均による平均粒径は88nmで、比表面積は12m^2/gであった。Siと炭素を原料とし、ほぼ大気圧に近い雰囲気圧力下、1000Kで結晶性のβ型SiCが合成された例は今までになく、しかも得られた粉体はナノ粉末であった。
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