低温、低圧力のより穏和な条件で物質合成が可能な新たなプロセスの開拓は、既存の無機材料合成の高効率化や、従来法では合成が困難な結晶相の作製、および新規物質の発見につながることが期待される。化学反応は、反応に関与する原子間での電子の授受により生じる。本申請者らは、アルカリ金属元素のひとつであるナトリウム(Na)の融液が電子を潤沢に供給する反応場となり、この活性反応場を利用した新たな反応・合成プロセスが構築できるのではないかと考えた。そして昨年度、この手法を利用することにより、炭素(C)の原料となるフラーレン粉末とシリコン(Si)粉末の混合物から、900-1000Kの加熱でβ型の炭化ケイ素(SiC)ナノ粉末が得られることを明らかにした。この合成温度は、従来のSiC合成の一般的な温度に比べて200 K以上低かった。 本年度は、安価な炭素源であるカーボンブラックとSi粉末を原料とし、これらの混合物の圧粉成形体をAr雰囲気のNa蒸気中で加熱したところ、1000KでSiCの多孔体を合成することができた。SiCの理論密度に対する相対密度は原料中の炭素量の増加とともに減少する傾向が見られ、Si:C=1:4の原料を用いた場合、24%となった。電子線回折で合成された試料がβ-SiCであることが確認され、電子顕微鏡で大きさ数十〜数百nmの粒子が多数結合した組織が観察された。細孔分布を測定した結果、直径3〜4nmにピークがみられ、比表
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