研究概要 |
本研究の目的は,フラックスの蒸発を駆動力にしたフラックス蒸発エピタキシー法により,高品質な単結晶皮膜をセラミック基板表面に直接形成し,その複合基板材料をエネルギー・エレクトロニクス分野などで応用するための基礎研究を推進することである。本年度は特に,アルミナセラミック基板表面へのコランダム単結晶皮膜の形成技術の確立に注力した。 はじめに,アルミナ基板の表面原子を利用した酸化モリブデンフラックス蒸発法により,約1100℃にてアルミナ成分の溶解・結晶化を実施した。また,結晶皮膜の観察を容易にするため,酸化クロムをドープし,赤色発色を目指した。その結果,アルミナ基板表面に,六方両錐を基本形状とするきわめて高品質なルビー単結晶からなる結晶皮膜の作製に成功した。フラックス成分が接触するすべての領域に,ルビー単結晶皮膜の形成が可能であるとわかった。形成される単結晶皮膜形状は,セラミック基板表面状態に大きく影響されることが観察された。アルミナセラミックのような多結晶基板(きわめて多数の結晶粒界が存在)の場合,ルビー単結晶はさまざまな方位で成長するため,きらきらと輝いた。皮膜断面観察により,ルビー単結晶皮膜はアルミナ基板表面から直接成長する様子が観察され,その密着性はきわめて高強度であった。 つぎに,ルビー単結晶皮膜を形成可能な基板種(アルミナ純度)を検討した。アルミナとシリカの混合割合が60:40の場合,ルビー単結晶皮膜は成長せず,AlとSiを含んだ化合物が生成した。アルミナ基板純度が90%以上の場合,ルビー単結晶皮膜を形成できることがわかった。特に,その純度が99%以上の場合,きわめて高品質なルビー単結晶皮膜を育成できた。また,酸化モリブデンの蒸発を抑制する塩基性酸化物(例えばNa_2CO_3など)を添加することで,結晶成長速度の抑制による皮膜の高品質化が可能となった。
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