生体膜は数種類の脂質からなる多元系で、体内の環境に応じて「相分離」し、ドメイン構造を形成する。我々は、膜タンパク質のバイオセンサーへの応用として、また構造解析に有用な二次元結晶化の手法として、固体基板上脂質二重膜におけるドメイン構造の凝集、輸送のアクティブ制御の実現を目標としている。本研究では、最初に外部からの光刺激によって、相分離ゲル相ドメインの優先形成制御を試みた。さらにこの優先形成のメカニズムを解明するともに、この現象を利用することで、このドメイン密集領域の位置、サイズ場制御、最終的には輸送制御を試みた。 基板には、化学酸化で表面にSiO_2を形成したSi基板を用いた。脂質にはDMPC/DOPC/TexasRed-DPPE(=50/50/1)を用い、ベシクル展開法により脂質二重膜を形成した。試料全体の温度制御はペルチエステージで、局所加熱は顕微鏡に付随する水銀ランプによる光照射で行った。観察は蛍光顕微鏡で行った。その結果、以下の知見を得た。 ・光照射によって、相分離したゲル相ドメインが優先形成されることを見出した。 ・光照射位置を変化させることで、ドメイン形成位置の制御に成功、さらに、ドメイン密集領域が移動させることにも成功した。 ・これらの優先形成のメカニズムは次のとおりである。ドメイン構造の増加はDMPC組成の増加を意味する。光照射により膜が局所加熱されると、熱膨張により局所的に歪みが生じる。それを緩和するため、光照射部に占有面積の小さいDMPCが拡散、流入し、ドメインが優先的に形成される。 これらのメカニズムは、基本的に温度が深く関与している。そこで、次段階に向け、局所的加熱装置の開発と、AFMへの組み込みも行った。本年度は出版済みの論文はないが、投稿中である。
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