本研究の目的は、任意のタイミングで物質から単一電子を真空領域に取り出す方法を提案すると同時に、実験装置を設計・製作して実際にそのようなことが可能であることを実験的に確認することである。 先ずは、平成18年度の研究期間で未解決であったSTM構造部における探針と試料基板(Si(111)面)の間のギャップ長を制御するための除振対策について取り組んだ。その結果、除振機構としてバネ吊り方式を採用し、吊り下げ用バネのバネ定数及びSTM構造部の板厚を調整し全重量を適正化することにより機械振動からの影響を取り除くことが出来た。これにより、探針と試料基板間の距離をSTMと同様にトンネルギャップでの電流値とバイアス電圧値の設定(0.25nA、±1.95V)によりÅ単位での安定した制御の下で、ガス原子(He)の侵入数及び放出電子の引き出しに最適なギャップ長を設定することが可能になった。 次に、第2の課題であるギャップ領域から放出されるオージェ電子の検出のための予備実験に取り組んだ。オージェ電子放出を実現する実験パラメータであるHeガス雰囲気の圧力、トンネルバイアスに重畳するパルス電圧の波高と幅に対する試験値は各々1×10^<-6>Torr、2V、50nsとし、放出電子の計数計測を試みた。その結果、印加するパルス電圧による電気ノイズは検出回路にハイパスフィルターを入れることで除去出来たが、不規則に飛び込んで来るノイズ(約100カウント/分)が本物の放出電子の信号(数個/パルス)を検出する上で障害になった。このノイズの発生源は、実験室外からのものであることが判明したので、本装置の検出器部分をシールドボックスで覆うことで大幅なノイズ低減(0〜10個/分)を達成した。但し、現状ではシールドが完全ではなく、信号取得において安定性と再現性の面で信頼度に欠けるため、装置全体をシールドすることも視野に入れて対策中である。
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