試験用の膜電極接合体として、今回はDuponのNafion117(アノードPt-Ru/C、カソードPt/C、厚み20μm、50mmx50mm)を採用した。試験ポンプは、"太鼓"状の構造をしており、両側に2枚の膜を取り付け排気口とし、内部を大気とした。膜の真空側(排気口側)は、大気圧で膜が変形・破損しないように、網状の板で押さえた。真空側、大気側は絶縁され、両側に電圧を印加することができる。ただし、大気側真空シールに不具合が生じ、10^<-4>Pam^3/s程度の洩れが生じた。そのため、まずは排気作用の原理実証を目標として、試験ポンプ内部も排気することとした(約3Pa)。試験ポンプを挿入する真空チェンバー(ターボ分子ポンプで排気)には残留ガス分析計を取り付けた。真空チェンバー側圧力は約1×10^<-5>Pa、3Paであった。温度は室温である。 実験では、膜の真空側(外側)に80Vまで正負の直流電圧を加え、残留ガス成分の変化を調べていった。測定開始初期、膜に電圧を加えると、電圧の正負に関わらず圧力が上昇した。詳細な機構は不明であるが、電圧を印加し続けると次第に低下した。この初期のガス放出が小さくなった段階で、再度電圧を加えて残留ガスの変化を調べた。その結果、外側に正の電圧を加えると、若干だが水素分圧が減少した。水はほとんど変化しなかった。一方、膜外側に負の電圧を加えると、水素、水の分圧ども明らかに増大した(80Vで約2倍)。他のガス(一酸化炭素など)はいずれの場合も分圧が増加した。これは、膜に水素に対して選択的な透過作用があることを意味し、ポンプとして作用可能であることを示唆するものである。今回の試験ポンプでは真空洩れを生じたことから、排気ポンプとしての動作は確認できなかった。また、膜自身からのガス放出も想定以上に多かった。これらの問題を解決していくことが今後の課題である。
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