実問題で生じている重要な逆問題では、種々の現象とそれらを支配する原理が複雑に絡みあい連成している、いわゆるマルチフィジックスを扱わなければならないことが少なくない。また、高精度・高感度の応答を得ようとすると複数の現象が複雑に絡みあった問題を取り扱う必要性がある。 本研究の目的は、問題を非連成化し、数理解析を援用することにより、複雑な現象においても見通しの明確な、マルチフィジックス逆問題に対する数理解析援用逆問題解析手法の構築を行い、その指針を明らかにすることにある。この手法にかかわる具体例として、高温流体誘起熱応力にかかわる逆問題を取り上げた。また、温度計測情報やひずみ計測結果から熱伝達係数を推定する逆問題を取り扱った。得られた結果は以下の通りである。 (1)高温流体がパイプに流入するときに誘起される過渡的熱応力を低減する問題に対し、熱伝導、熱伝達、弾性変形、流体流動を考慮しながら、問題の分解を行った。起動時および停止時に対し、過渡的最大引張応力および最大圧縮応力を最小にするような、流体温度の履歴を求めた。その結果、起動時の最大引張応力を停止時の最大圧縮応力の間、および起動時の最大圧縮応力と停止時の最大引張応力の間に対応関係があることがわかった。また、温度履歴を与える関数群を変えても、最大応力値はほとんど変わらなかった。熱伝達係数が著しい温度依存性を示す場合にも、手法が有効であることがわかった。 (2)計測が困難な熱伝達係数を、パイプの外面と流体の温度履歴計測結果、あるいはパイプ外面のひずみ履歴および流体温度履歴をもとに推定する手法に関する検討を行い、手法の有功性を確認し、計測誤差が推定けっかに及ぼす影響を明らかにした。 (3)マルチフィジックス逆問題に対する解析手法の指針を与えた。
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