生体の凍結保存において、凝固点降下を引き起こす制御因子(従属的)として、添加剤(凍結保護物質)の他に、系圧力を加えた、体積一定条件下での新しい凍結保存法を提案すると共に、その特性や有用性の解明には、熱工学的手法による基礎研究が有用である。この立場から、等積条件下での凍結保存法に対して、凍結保存に関わる水溶液の凍結の熱力学的特性(温度と圧力、氷の生成量など)の解明を目指した。これにより、実験装置、計測方法に関する改善点を明らかにすると共に、生体材料の凍結・融解後の生存性の実験における熱力学的条件を明確にした。具体的には、 1.生理食塩水の凍結実験:凍結保存の基本となる水溶液である生理食塩水について、凍結の熱力学的特性として、設定温度に対して系圧力(熱平衡状態)を測定した。 2.凍結保護物質を含む生理食塩水の凍結実験:凍結保護物質(2.0Mグリセロールなど)を含む生理食塩水について、1.と同様に、設定温度に対して系圧力(熱平衡状態)を測定した。 1.と2.の凍結実験から得られた、この温度に対する圧力特性は、容器を含めた系の剛性などに依存するため、さらに、未凍結水溶液の濃度(または、氷晶の形成量)の情報が必要である。この計測を試みたが、本研究の範囲では、計測方法として不十分であることが明らかになった。今後、光ファイバーと水溶液界面でのレーザー光の全反射から濃度を計測する方法や、系の剛性から氷晶の形成量を予測する方法を検討する必要がある。 さらに、生体材料の凍結実験(等積条件)として、温度・圧力・未凍結水溶液濃度(または、氷晶量)に対して、赤血球の溶血率を求めると共に、大気開放の状態での凍結実験結果との比較・検討から、圧力、凍結保護物質の効果を調べると共に、本凍結保存法の有用性を明らかにする必要がある。
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