研究概要 |
昆虫は様々な環境の中で,最適な行動を発現することで環境に適応している.このような昆虫の優れた環境適応性は,ロボットに必要な重要な要素である.適応行動は,環境との相互作用によって発現するため,感覚フィードバックの存在する閉ループでの実験が必要である.18年度は,1)昆虫操縦型ロボット,2)閉ループ実験系による複数感覚統合モデルの構築を行った.1)昆虫操縦型ロボットは,ロボットに載せた雄カイコガ(Bombyx mori)の運動計測を基に移動ロボットを操作し,昆虫の行動を再現したものである.動作検証の結果,ロボットは,カイコガの本能行動によって,フェロモン源へ定位することができた.この行動を指標として,ロボットのモータゲインを操作することで,昆虫が新たな環境に適応できるか調べた.左右のゲインを均等に操作し,速度を変化させたところ,定位成功率は変化せず,速度はゲインに依存して変化した.このことは,移動速度によらず,カイコガの定位行動プログラムそのものがロバストに機能することを示唆するものである.一方,左右のゲインを非対称に変化させ,一方向へのターンを誘導してもロボットは定位可能であった.このときの左右の旋回パラメータには有意差がなかったことから,視覚や風といった感覚フィードバックによる補正がなされていると考えられる.2)閉ループ実験系による感覚統合モデルでは,フェロモン刺激によって発現するカイコガの歩行運動を計測し,移動に伴って変化する背景の動き(visual flow)を提示することで,視覚情報の定位行動に果たす役割を分析した.行動実験の結果から行動モデルを構築したところ,フェロモン濃度の低い環境では,視覚情報の統合は定位にとって逆効果であるが,高い濃度では定位成功率を高めることが示唆された.このことから複数感覚統合は,環境に応じて調節されることが重要であると考えられる.
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