微生物の特徴的な行動として走性行動がある。ゾウリムシでは適温に集まる熱走性や電場中で負極に集まる電気走性がよく知られている。ゾウリムシは繊毛を使って泳ぐ。その泳ぎは直進とランダムな方向変換からなる。熱走性では、外界の微弱な温度変化の情報を取り入れて、このランダムウォークを少しだけ偏らせて、適温に向かう確率を高めるのである。しかも単細胞生物の限られた情報処理能力にも関わらず、絶えず変動する環境の中で、ローカルミニマムに陥ることなく適温を探索可能にしている。本研究はこの生物の行動原理に基づいた自律探索型ロボットを開発することを目的とし、ノイズを積極的に利用するという工学的には全く新しい発想を提案する。 平成18年度は、これまでの研究経緯を振り返り、ゾウリムシの膜電位応答を確率共鳴の観点から再度モデル化し、その走性行動を模擬したロボットを作製した。ノイズを導入したこの新たなモデルでは、パラメータの最適化を計ることによって、各場面の動きはゾウリムシをよく模擬するものとなった。しかしその結果としての走性行動は不十分なものであった。そこで、実際のゾウリムシの顕微鏡下での動きを観測した。その結果、1匹ではやはり走性行動は不明瞭で、集団で初めて走性が顕著になることが確かめられた。これはゾウリムシが分泌物による化学コミュニケーションによって集団の協調現象まで利用して走性行動を実現していることを示唆する。また、確率共鳴の効果をゾウリムシで直接確かめるため、温度勾配下で電場ノイズを付加して熱走性の強化の有無を調べた。ノイズ付加時の方が集団化が強まる傾向にあることがわかった。以上により本モデルの妥当性を示すことができた。今後、変動環境における追従実験を経て、自律探索ロボットとしての実用化を図る。
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