研究概要 |
モノリシックマイクロ波集積回路において,集積化インダクタの性能指数Q値を高めることが求められている.本研究は高周波抵抗増大の主因である表皮効果そのものを抑制することを狙っている.そのためには,コイル導体の構成を一般的なメタル導体(Cu)と薄い磁性薄膜との積層構造とし,かつ磁性薄膜の透磁率が負であるような帯域で用いることがよいと考えられる. この考えを実証するため,初年度の本年はまず,スパッタ法によるCoNbZr磁性薄膜の共鳴周波数制御を行い,250〜350℃,3000Oe,2時間の回転磁界中熱処理と250〜300℃,3000Oe,2時間の静磁場中熱処理により強磁性共鳴周波数を0.7〜2,7GHzまで制御できることを明らかにした.次にCu導体と磁性膜との単純な積層構造を試作し,その磁気特性を計測した.その際必要となる膜厚計測には,備品として購入した段差式膜厚計を使用した.計測の結果,磁性層単層の場合と同等の特性が得られていることが分かり,相互拡散や応力による磁性層の特性劣化やメタル層の電気伝導率の低下などは無視できることが明らかになった. 本研究の主題である集積化インダクタの試作実験に先立ち,コプレーナ型伝送線路をメタル-磁性体積層薄膜で作製し,等価回路解析により,高周波抵抗の周波数特性を抽出した。その結果,積層薄膜の平均的な透磁率が零になる周波数付近において流抵抗が低下することが実験的に確認され,間接的にではあるが,基本的考えの確からしさを実証する結果が得られた. 以上の結果に基づき,既存設備の高周波電磁界シミュレータを用い,2.45GHzにおいて高周波抵抗が最小になるようなスパイラル型インダクタの設計を行った.現在試作中であり,次年度早々に特性計測に入る予定である.
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