本研究は、窒化アルミニウム(AlN)薄膜を用いた薄膜バルク弾性波共振器(FBAR : Film Bulk Acoustic Resonator)をベースとして、その高周波(GHz)帯での優れた共振特性を活用して、高感度な水素ガスセンサを開発することを目的とする。平成18年度の研究成果は以下のとおりである。 1.Pd薄膜の膜質・面積・膜厚の最適化 本提案の水素センサでは、水素感応膜として使用するパラジウム(Pd)薄膜の面積を大きくすると、吸着される水素の量が増すため、共振周波数のシフト量を大きくとれる。Pd薄膜の厚みを厚くしすぎると、FBARの共鳴周波数が低下し、FBAR本来の強みである高周波でのセンシング能力が低下する恐れがある。そのため、Pd薄膜の面積・厚み・膜質などの最適化が必要であった。FBARの上部電極の上に、サイズが約200μm^□で、厚みが40〜200nmのPd薄膜を高周波マグネトロンスパッタ法で成膜し、水素センサを試作した。試作センサの共振周波数は1.7GHzで、Q値は93程度であった。これを用いて水素のセンシング実験を行い、以下の知見を得た。 (1)水素吸着による共振周波数のシフト量は、水素センサを設置したチャンバー内に導入する水素ガス流量に比例する。 (2)1%の濃度の水素ガスに暴露させたとき、142kHzの共振周波数シフト量が得られる。 (3)スパッタ成膜したPd薄膜を300℃でアニール処理することによって結晶性が向上し、水素ガスへの応答速度が改善する。 (4)Pd薄膜にNiを8%程度添加することによって、水素ガスへの応答速度が向上する。 2.脱水素化温度の調整 水素センサとしての繰り返し使用を可能にするには、Pd薄膜に吸着・吸収した水素を脱離して、再びセンサとしての機能回復させる必要がある。試作した水素センサにおいて水素を脱離させるためには150℃程度の加熱処理が必要なことが明らかになった。
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