研究概要 |
生体リズムの研究は生物学における重要な研究テーマであり続けている.植物においても,光合成の日内リズム機構の解明が実験ベースで盛んに研究されている.特に,サボテンなどの多肉植物は,CAM型光合成(crassulacean acid metabolism,ベンケイソウ型有機酸代謝)と呼ばれる乾燥環境に高度に適応した炭素代謝機構を進化させており,昼夜サイクルの間のCAM代謝濃度の変化を表す非線形方程式系であるCAMモデルが提案されている.このモデルの内部状態を表す変数は,内部二酸化炭素濃度,細胞質内リンゴ酸濃度,液胞内リンゴ酸濃度,液胞膜並び変数の4つで,外的環境からの入力は,外気温,外部二酸化炭素濃度,光強度の3つであり,入力変数の設定値の広い領域において発生することが示されている.本研究では,BlasiusやBeckらの植物学者の提案しているCAM生体リズムモデルをシステム理論的に体系化するを目的としている.今年度は,部分状態から細胞内の全状態を推定する機構およびリズムを制御する機構を提案した.特に,測定のしやすい常態量である内部二酸化炭素濃度および入力変数である外気温,外部二酸化炭素濃度,光強度の情報から,適応オブザーバを用いて,内部状態量である細胞質内リンゴ酸濃度,液胞内リンゴ酸濃度,液胞膜並び変数と液胞膜の輸送特性を特徴付ける非線形関数を推定する機構を提案した.これを可能にするために,Fuzzy Basis Function Expansionを用いた.性能はMATLAB/Simulinkによる数値シミュレーションにより検証した.その結果,液胞膜の輸送特性を特徴付ける非線形関数が未知の場合には,十分な推定性能が得られなかったことから,今後は,その性能をあげる機構の提案を計画している.
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