研究概要 |
研究初年度である本年度は,土木事業に対する世論を分析するための全国規模のアンケート調査を実施した.調査の設計,ならびに,得られたデータの分析にあたっては,政治心理学における世論に関する代表的理論である「沈黙の螺旋理論」に準拠した.この理論に基づいて,人々ひとり一人の土木事業に対する「意見」を形成する基本的要因,すなわち,マスコミ,親近者の意見,行政からの広報の影響の有無,ならびに,その程度を分析した.その結果,土木事業について肯定的な意見を発言・主張する傾向は,肯定的な意見を持つ人ほど低下する傾向が存在することが,ならびに,その傾向は,公共事業に対して否定的な意見を形成している都道府県ほど強いことが示された.また,世論についての認知が実際の賛否意識よりも低い傾向が見られること,かつ,その傾向は,賛否意識が高い都道府県ほど強いことが示された.これらの結果より,我が国における土木事業に関わる世論を巡って,沈黙の螺旋のプロセスが一定程度進行している可能性が,さらにその結果,人々の土木事業に対する賛否世論が過度に否定的なものとなっている可能性が確認された. そこで,こうした沈黙の螺旋による人々の土木事業に対する過度に否定的態度が,政府によるコミュニケーション施策を通じてどのように緩和され得るのかについて明らかにすることを目指し,その第一歩として,土木事業に関わる客観的な情報を提供することによる効果を検証するための実験調査を実施した.その結果,土木事業の目的や意義に関するメッセージを提供することによって,人々の土木事業に対する理解が一定程度深まり,土木事業に対する賛成意向が向上し得ることが実証的に示された.
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