研究概要 |
今年度は,家計の耐震診断・耐震改修の意思決定行動に関してモデル化を行った.具体的には,耐震改修後に家計が家屋の質,例えば耐震性,を確認することが出来ない事後確認の困難性に焦点をあて、事後確認の困難性下における社会的に望ましい契約の枠組みである性能照査型契約の提案を行った. 一般に,事後確認の困難性下では、家計は耐震改修を依頼しない.これは,事後確認の困難性下では工事の質が見えないために家計は企業の怠慢な改修工事を見抜くことは出来ないことによる.業者は機会主義的な行動をとることが可能であり,これを防ぐためには第三者による事後検査を導入する必要がある.今年度分析を行った性能照査型契約は,設計段階において設計図書が基準を満たしうる設計図書か否か,施工段階において設計図書通りに施工がなされたか否かに関する検査を行い,この二段階の検査を通過した場合に限り業者が施主から支払いを受ける契約スキームである.このとき,検査精度が十分高い場合は,社会的に最適な契約が耐震改修依頼主と業者の間で結ばれることが示された. また,藤見・多々納は,保険市揚を対象にして,不払い確率の曖昧性が地震保険の購入行動における大きな阻害要因となっていることを実証的な観点から分析を行った. 現行の制度のもとでは,耐震改修後の家屋の質に関して家計は非常に曖昧な知識を有していると考えられる.今後は,今回多々納が構築した耐震診断・耐震改修モデル,さらに藤見・多々納が構築した曖昧性を考慮した計量経済モデルを応用し,耐震診断・改修依頼主と業者の間のゲーム分析へと発展させる予定である.
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