大都市における住宅市場のアップ/ダウンは均一に生じていた。これに対し、1990年代末からは、住宅価格が上昇するエリアが形成される一方、価格低下が続くエリアが存在する、という現象が生まれてきた。この点を、住宅市場のホット/コールド・スポットの分裂として捉え、理論化しようとする点に本研究の狙いがある。昨年度の統計分析に引き続き、独自に収集した統計等の資料にもとづいて分析を行い、住宅市場の差異化のメカニズムとして、(1)人口要因による住宅需要の圧力が全体として低下し、かつ住宅ストックの総量と空き家が増えていることから、住宅市場の動き方が均一ではなくなったこと、(2)人口の都心回帰の傾向を反映し、都心部ではマンション建設が旺盛に続き、ホット・スポットを生みだしたこと、(3)政府の都市再生政策が都心の大型事業を各種手法によって優遇したことから、ホット・スポットの形成が政策的に誘導されたこと、(4)第二次ベビーブーマーの住宅取得がホット・スポットの形成を牽引したこと、(5)郊外部では住宅需要の減少が続き、住宅価格の低落が止まらず、そのことがコールド・スポットを形成したこと、等を指摘し、ホット/コールド・スポットの差異化が住宅需給関係の変容に加え、政府セクターの都市再生政策の起因する側面をもつことを明らかにした。以上の研究結果から、これからの住宅市場分析は、市場全体をみるだけでは不十分で、住宅市場のアップ/ダウンの空間的な分裂を考慮に入れる必要があることが指摘される。
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