花粉症や食物アレルギーの治療法として、エピトープペプチドの投与による減感作療法が有効であるとの報告がなされている。これはアレルゲンタンパク質のアミノ酸配列(エピトープ)を取り出し、ペプチド(エピトープペプチド)として投与すると、この物質に対するアレルギー反応が中断されるというものである。本研究では、スギ花粉症の減感作療法のために、まずエピトープペプチドを発現するためのレトロウイルスベクターを作製し、鳥類胚への遺伝子導入によって、エピトープペプチドを卵に生産するトランスジェニック鳥類を作製することが目的である。本年度は、エピトープペプチドをコードする遺伝子の設計・合成と、同遺伝子を発現させるためのウイルスベクター生成用プラスミドの作製、および同ベクターによって動物細胞への遺伝子導入を行い、エピトープペプチドの生産が行えるかについて検討した。 スギ花粉アレルゲンとしてCry-j1およびCry-j2があり、この中にある7つの主要なエピトープが知られている。このエピトープを1つにまとめたペプチドをコードする遺伝子配列をニワトリで頻用されるコドンで設計し、リゾチーム分泌シグナルの遺伝子配列とともに全合成した。次に、この遺伝子を発現ユニットに組み込んだレトロウイルスベクター生産用プラスミドを作製し、293FT細胞を用いてレトロウイルスベクターを生産したところ、10^6-7IU/mlの高力価のウイルス溶液を得ることができた。得られたウイルス溶液を使ってCHO細胞へ遺伝子導入処理したのち、限界希釈法によってクローニングし、スギ花粉エピトープペプチドを高生産していると思われるクローンを樹立することができた。来年度は、このウイルスベクターを用いてニワトリやウズラ胚へ遺伝子導入することで、スギ花粉エピトープペプチドを卵中に生産するトランスジェニック鳥類の作製を試みる。
|