研究概要 |
環境中では多種多様な微生物が雑多に存在する複合微生物系を形成している。本研究ではシステムバイオロジーの概念を微生物生態学に導入し,実験的手法および知識工学的手法を併用してコンピュータ上に微生物のコミュニティーを再構築し,微生物生態形成メカニズムの真の理解につなげる新規方法論を確立・提案することを目的とした。本年度は,複合微生物系の一例として,メンブレンエアレーション法と呼ばれる排水処理装置に利用されるバイオフィルムを取り上げた。まず,蛍光遺伝子プローブ法(FISH法)および微小電極法を併用してバイオフィルム内に存在する微生物群の生態学的知見を得ることを検討した。つぎに,個々の微生物細胞を一つのパーティクルとして表現するIbM(Individual based Model)をベースにバイオフィルムモデルを構築した。 バイオフィルム内の溶存酸素濃度分布を微小電極法によって測定した結果,多孔質膜表面から500μm付近で酸素が枯渇することがわかった。この実験結果とシミュレーション結果を比較した結果,両者は定量的に良く合致することがわかった。一方,硝化細菌(AOBおよびNOB)の分布をFISH法で測定した。その結果,AOBは多孔質膜表面付近で最も多く存在した。一方,NOBは大きく分けて2種類(NitrospiraおよびNitrobacter)存在し,Nitrobacterが多孔質膜表面付近で優占化しているのに対してNitrospiraは酸素濃度が低いバイオフィルム中心部にも広く存在していることが示された。IbMに基づいたシミュレーション結果はAOB分布の実験値を定性的に良く再現したが,NOBの挙動を説明することはできなかった。今後,NOBをシミュレートするにはNitropspiraの微生物増殖パラメータを精査し,モデルに組み込むことが必要である。
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