同一の遺伝子型の生物が環境の変化に応じて表現型を変化させる能力を"表現型の可塑性"とう。生物はしばしば特定の環境に反応して、形質を可塑的に変化させることによって、その環境に適応していることが知られている。池の生物群集の構成メンバーである両生類は、群集内の生物間相互作用に応じて、形態を変化させる。その変化は、生物間相互作用の中で適応的可塑性として認識される。北海道の林縁部に形成される池に生息する、エゾアカガエル(Rana pirica)のオタマジャクシとエゾサンショウウオ(Hynobius retardatus)幼生は、そのような適応的形態可塑性を示し、形質可塑性の進化を研究する上で優れたモデル生物系である。 エゾアカガエルのオタマジャクシとエゾサンショウウオ幼生は、冬が終わり雪解けとともに形成される池の生物群集の創始者である。エゾアカガエルのオタマジャクシは植食者であり、エゾサンショウウオ幼生はゾアカガエルのオタマジャクシの捕食者となる。オタマジャクシとサンショウウオ幼生は、同じ池で孵化し発生が進むと、サンショウウオ幼生はオタマジャクシを捕食するのに優れた頭でつかち形態が誘導され、オタマジャクシはその捕食危機に対処する機能を果たす頭胴部を肥厚させた膨満形態が誘導される。どちらも、互いに相手がいないときには、それらの形態は発現しない。また、一度発現した形態は、相手が生息環境からいなくなると成長に伴って縮退する。これらの形態は、捕食-被食の関係の攻撃-防御の誘導形態発現デザインの共進化と考えることが出来そうである。
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