研究概要 |
1.長野県内の2か所において,樹木の幹上に生息するクチナガオオアブラムシ類-共生アリ(クサアリ類)の季節的な個体数変動を調べた.樹高15m程度のクヌギ6本の調査結果はほぼ同調しており,5月から発生が始まり,7月中旬にピークをむかえ,その後減少し10月中旬に収束した.アブラムシとアリの個体数の季節変動は同調しており,ピーク時でそれぞれ木当たり50個体および500個体程度であった.この個体数レベルは2004年の調査時の20分の1程度であった.2004年は今回より遅く8月上旬に個体数のピークがあったこと,今回2006年は7月に記録的な集中豪雨があったことなどから考えて,この豪雨が今回の個体数減少の原因と考えられる. 2.クヌギ幹上に小型ケージをとりつけ,アリが随伴できない状態にしたアブラムシの甘露排泄回数を調べた.10日間連続で6個体のアブラムシについて個体ごとの排泄回数を調べたところ,個体間の変動は大きいが,それとともに同じ個体でも日ごとの排泄回数の変動が極めて大きいことがわかった(1時間当たり0回-90回).このことは,(甘露排泄量によってアブラムシが「育種」されているとすれば)数分〜数十分程度の短期的な甘露排泄回数によってアリに捕食されるかどうかが決まるのではなく,もっと長いスパンでの排泄回数がアリにモニターされるようになっているのではないか(例えばアリによるアブラムシへの化学物質マーキングなどの方法により)との予測をうむ. 3.一方,アリが随伴した状態でのアブラムシの甘露排泄を観察したところ,排泄頻度は,非随伴時よりも頻繁で,また1回当たりの排泄量は少量であった. 4。長野県内各地から採集してきた別クローン由来の60コロニーを隔離累代飼育した.しかし,(試行錯誤の末に)飼育個体群が確立した時期が遅かったため,多くの個体が有翅虫となったり,あるいは自然死した.このため,アブラムシ個体ごとの形質とアリ捕食の起こり方との関連を調べるには至らなかった.
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