研究概要 |
温帯では四季、昼夜で気温が大きく変化するため、そこに住んでいる動物は広い温度域に対応して生きている。そのため、動物が低温や高温に順化する過程では遺伝子の発現状態が変化していると考えられる。しかし、この温度順化現象の分子機構の研究はきわめて少ない。温帯の水生動物であるニホンメダカが生存できるのは5℃〜35℃であり、低温順化の過程での遺伝子発現の変化を解明する実験材料として適している。 今回、メダカを用いて温度順化現象の分子機構の研究を計画した。12℃、26℃、32℃の水槽で1週間飼育したニホンメダカの脳よりRNAを調製し、mRNA differential display (DD)法を用いて温度依存的に発現量が変化する遺伝子を探索した。これらのうち12℃で発現量が増加するひとつの遺伝子に注目した。この遺伝子産物はDNA結合ドメインであるTEAドメインをもつ転写因子、TEF-1(Transcription Enhancer Factor-1)と強いホモロジーを示し、メダカにおけるTEF-1のホモログであると考えられた。TEF-1は、TEF-1 A,TEF-1Bのふたつのスプライシングバリアントとして発現する。このうち、TEF-1Bのみが低温で発現が増加することが明らかとなった。一方、ミオシン重鎖遺伝子やトロポニンT遺伝子が温度依存的発現を示すことが本研究により明らかとなった。メダカにおいては、これら筋タンパク質遺伝子群がTEF-1により制御され、筋肉の再構築を図ることを通じて広い温度範囲に順化することを可能にしていることが考えられる。
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