ペプチドについて良好なマススペクトルを得ることを条件に、ナノサイズ多孔アルミナの細孔周期200-500nm、細孔深さ60nm-1μm、細孔径85-310nm、表面金属蒸着厚5-200nm、さらに蒸着する金属種について系統的に調べた。このようなナノ構造試料板上にアンギオテンシンIをマトリックスを加えることなく直接に塗布し、337nm窒素レーザーを用いた真空内レーザー照射によるイオン化で得られるシグナル強度あるいはシグナル近傍でのSN比を照射レーザー強度に対してプロットした。 設定した構造範囲において、イオン化に必要なレーザー強度の閾値(下限値)はporosityに反比例し、検出されるプロトン付加分子のイオン量(あるいはSN)も同様の傾向であった。337nmレーザーに対して特異的な応答を示す構造はなかった。細孔深さについては60nmよりも180nm以上の深さで良好なマススペクトルを得た。また、蒸着する白金厚が薄い5nmあるいは20nmでは、イオンを検出できるレーザー強度閾値が低い一方で、白金厚50nm以上の試料板で見られるようなレーザー強度上昇につれてのイオン強度、SNの改善はなかった。白金をさらに厚く200nmにすると、イオンを観察できるレーザー強度閾値が上昇した。蒸着厚50nmにおいて金属種を変えたところ、白金と金では適度なレーザー強度範囲では同等のマススペクトルを得たものの、金は高いレーザー強度においてSN低下とイオン量の減少が目立った。タンタルは高いレーザー強度を必要とした。パラジウムはかろうじてペプチドをイオン化できたが、ニッケル、コバルト、モリブデンはできなかった。 これらの結果から、porosityとイオン量の関係から、ナノ構造上面の平坦部分に存在する試料分子がイオンとなって検出されることが示唆され、また、イオン化に必要なレーザー強度閾値と構造や金属種との関係から、蒸着金属の融解がイオン化に関わるのではないかと考えられた。また、レーザー照射面における温度上昇と熱拡散がイオン化性能に関係すると推測された。
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