研究概要 |
通常の体細胞の細胞周期に比べて、ES細胞ではG1期,G2期の細胞がかなり少なく、S期とM期の割合が高い。そのため、ES細胞では、主に相同組換えによってDNA二重鎖切断修復が行われると考えられているが、非相同末端連結(NHEJ)の関与の程度については不明である。また、体細胞ではDNA損傷時には細胞周期をG1期に停止してDNAを修復する機構が存在しているが、ES細胞ではG1停止が見られない。このように、ES細胞は、体細胞とは異なった機構によって細胞周期チェックポイント/DNA損傷修復が行われていると予測できる。本研究課題では、ES細胞のDNA二重鎖切断損傷時におけるNHEJによる修復の程度と、ES細胞から分化した細胞におけるNHEJへの重点の切り替わりについて究明している。本年度は、霊長類カニクイザルES細胞培養において、比較的短期間のMEFフィーダーフリー培養によって細胞分子生物学的解析を容易にし、p21発現を中心に検討した。NCS添加によってDSBを誘導すると、その指標であるリン酸化H2AX(γ-H2AX)が検出されたが、P21タンパク質は検出されず、細胞周期解析でもG1期停止は認められなかった。しかし、p21 mRNAは増加しており、Ser15-p53のリン酸化とp53の蓄積も認められた。そこで、p21タンパク質がカニクイザルやマウスES細胞では特異的に分解されている可能性を考え、プロテアソーム系阻害剤(Lactacystin,MG-132)を加えて検討している。また、DNA鎖切断にも関わる活性酸素種(ROS)のES細胞における代謝能をDCFやNACなどを用いて調べている。
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