我々の研究室でクローニングした新規アクチン結合蛋白であるGirdinの生体における機能を個体レベルで解析する目的で、Girdin遺伝子のノックアウトマウスを作製した。ホモのマウスは、見た目に正常に生まれるが、生後3週間以内に発育の抑制と衰弱により死亡した。病態については解析中であるが、現在まで以下が判明したので報告する。 各組織におけるGirdinの発現を免疫染色にて調べると幼弱な血管の内皮細胞に強い発現があったこと、血管内皮初代培養細胞であるHUVEC細胞でGirdinをノックダウンするとVEGF依存性の細胞移動能と血管網形成能が障害されたことから、血管新生にGirdinが作用しているものと考えられたので、ノックアウトマウスにおける血管の異常の有無についての解析を行った。Girdinをノックアウトしたマウスでは新生仔の血管形成に明らかな異常は認められず、胎児期の血管発生ではGirdinの作用は必須ではないと考えられた。一方、生後に発達する網膜血管および脳微小血管においては、正常マウスに比べて6〜7割程度の乏しい発育であることが分かった。また、変異マウスの血管を培養してaortic ring assayを行ったところ、VEGF依存性の血管新生能が6割程度に抑制されていた。生後の血管新生は主にVEGFに依存した現象であり、これに特異的にGirdinが重要な役割を果たしていると考えられた。癌を栄養する腫瘍血管の形成、糖尿病性網膜症などの血管増殖性疾患などでは、VEGF依存性の血管新生が病態として重要であり、Girdinの作用を抑制することで新たな治療法が開発できる可能性が考えられた。
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