外部形態が左右対称な動物においても、その内臓器官には、左右非対称性が観察されることが多い。これまでに得られた左右性に関する分子レベルの知見は、脊椎動物に限定されており、その他の多くの動物門には適用できない。我々は、ショウジョウバエの左右非対称性が、非定型ミオシンIとアクチン細胞骨格に依存して形成されることを明らかにした。この左右非対称性の形成機構は、旧口動物で普遍的であると予測している。そこで、本研究では、有肺類巻貝の左右逆転突然変異体において、非定型ミオシンIファミリー遺伝子に突然変異が起こっている可能性を調べ、この仮説を検証することを目的とする。 ショウジョウバエの左右非対称性形成には、非定型ミオシンI(MyoI)ファミリーである、MyosinIC(MyoIC)とMyosinID(MyoID)は必要である。MyoIファミリー遺伝子は、進化的に保存されているので、有肺類巻貝がMyoI遺伝子をもつ可能性は高い。ヨーロッパ・モノアラガイでは、左右性が逆転する突然変異体が得られており、この突然変異の責任遺伝子が、MyoI遺伝子のいずれかであると考えている。そこで、ヨーロッパ・モノアラガイのMyoIファミリー遺伝子のcDNAを、RT-PCR法を用いてクローン化した。各MyoIのN-末端領域(頭部ドメイン)に、MyoIファミリーに特異的に保存されているアミノ酸配列が存在する。この領域に対応するディジェネレイト・プライマーを合成し、ヨーロッパ・モノアラガイ胚から抽出したmRNA由来の逆転写酵素反応産物を鋳型として、PCR反応を行った。その結果、モノアラガイのMyoIDの相同遺伝子に対応するcDNAのクローン化に成功した。現在、RNA干渉法を用いて、モノアラガイでMyoID遺伝子の機能をノックアウトする研究を進めている。
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