研究概要 |
静岡市内の特別養護老人ホーム「竜爪園」を対象として,高齢者居住施設の居住性を検討した。当該施設は木造3棟およびRC造棟により構成され,構造・使用材料による比較が可能である。木造各棟は小屋組架構方式が異なり,使用された木材に違いがある。 温熱環境の指標として,夏期暑熱時における各棟のWBGT(湿球黒球温度)およびPMV(予想平均申告)・日内変動を測定した。木造棟では弱めの空調制御により熱中症注意域前半のWBGTを維持しており,温度制御は比較的容易で,総じて快適であった。RC造棟では弱い空調制御を行なっていた早朝からWBGTは徐々に上昇し,空調を強めた午後に急激に低下した。RC造棟は,熱中症危険域の温度に達する恐れがあるため空調稼働が不可欠でるが,温度変化は大きく,温度制御が比較的困難であった。また,木造棟ではRC造棟に比して冷房機以外の温度が高く,RC造棟の相対湿度は振れ幅が総じて大きかった。 居住空間が心理・生理に及ぼす影響を検討するために,学生を被験者として視覚的印象評価(SD法)・感情プロフィールテスト(POMS短縮版)の心理指標,唾液中アミラーゼ活性・血圧・心拍数の生理指標を測定した。SD法による3因子「安心/安定」・「単調/殺風景」・「斬新/都会」と感情プロフィール項目「緊張-不安」に有意差が見られた。木造棟は総じて安心で面白みがあり,古風な印象で,木造棟聞でも差が見られた。RC造棟は都会的であるが不安で退屈な印象であった。感情プロフィールでは,総じて木造棟がRC造棟より負の感情が低く,活気感が高かった。一方,何れの生理指標においても木造棟とRC造棟で有意差は見られなかった。短時間で移動を含む測定の場合,木造とRC造による環境刺激は人の生理的変化に影響を及ぼさないと考えられ,更に検討が必要である。 木造高齢者施設は,適切な設計により良好な居住環境を実現できると考えられる。
|