研究概要 |
ニホンナシ果実のみつ症は果肉部が成熟にともない水浸状を呈する生理障害であり,発症した果実は果肉の褐変や,日持ち性の低下などにより,商品価値が著しく低下するため問題となっている.本申請課題では,みつ症抵抗性は異なるが,遺伝的背景が類似している兄弟系統間において,果実における発現遺伝子の違いや,遺伝子産物であるタンパク質合成の差異を詳細に比較し,みつ症の発現に関わる遺伝子を逆遺伝学的に検討するための新たな知見の獲得を目指している. ニホンナシの果実において,みつ症の発生程度のみを効率的に比較するためには,材料個体における,樹体生理や環境要因によるみつ症発生への影響を極力低減させる必要がある,本年度は,ニホンナシ‘豊水'ב南水'および‘豊水'ב豊月'のF_1系統を材料として用いて,みつ症が発生するステージの検討を行った.その結果,両交雑組み合わせとも感受性系統は8月中旬以降にみつ症を発生することが明らかになった.また,感受性系統はいずれも比較的大型果であり,明らかに果肉先熟の傾向を示していることが明らかになった.さらに,みつ指数が3以上の重症果の発生は,感受性系統でのみ観察された.特に‘豊水'ב南水'のF_1である16-17系統と16-24系統の間には顕著なみつ指数の変異が観察された.したがって,これらの系統が,来年度以降,みつ症果の発生機構を検討するうえでの有望な材料となりうる可能性が示唆された. 一方,cDNAサブトラクション法による差時的,特異的発現遺伝子の選別を目的として,‘豊水'果実を材料として,みつ症発生果と健全果で果肉特異的に発現する遺伝子のcDNAライブラリーを作製した.現在,cDNAサブトラクション法により,みつ症発生時に差時的,特異的に発現する遺伝子の選別を行なっている.
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