研究概要 |
ニホンナシのみつ症は,果肉部が水浸状となり日持ち性の低下や果肉の褐変をもたらし,商品価値を著しく低下させる重大な生理障害である.ニホンナシ品種‘豊水'は果実品質に優れるが,みつ症を発生しやすいためみつ症果が市場に流通し,しばしば問題となる.これまで栽培温度などの環境要因,袋掛けや剪定などの栽培要因およびエチレンやジベレリンなどの植物ホルモンの影響など様々な研究が行われ,みつ症発生を抑制する要因および助長する要因の検討が行われてきた。しかしながら,みつ症の発生に関する遺伝子についての報告は無い.本年度は,みつ症感受性品種‘豊水'のみつ症組織および健全組織を用いたcDNAサブトラクションを行い,みつ症組織および健全組織に特異的に発現する遺伝子を明らかにし,それらの解析を行った.‘豊水'果実を用いてみつ症組織および健全組織からHot borate法により全RNAを抽出した.Poly(A)+RNAに精製した後,cDNAサブトラクションを行った.次いで,サブトラクションサンプルのPCR産物を,クローニングおよびシークエンスした.得られたcDNAライブラリについてはBLAST解析により相同性検索を行った.両方向のサブトラクションおよびクローニングにより,みつ症組織に特異的な遺伝子を2クローン,健全組織で特異的なmRNAを32クローン選抜した.これらの配列についてBLAST解析を行った結果,既知のmRNAと相同性の高い配列が,みつ症組織特異的mRNAで2種類,健全組織特異的mRNAで12種類選抜された.残りの20種類については新規の遺伝子であった.来年度以降は,選抜された遺伝子について,その機能と,みつ症果の発生との関連性を解析していく予定である.
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