先に、イチゴ黒斑病菌のAF毒素生合成遺伝子クラスターが培地上での成育には必要でない1.05Mbのconditionally dispensable染色体(CD染色体)にコードされていることを見出した。そこで、本染色体の塩基配列を決定し、449kbと554kbの2つのコンティグ(コンティグ1および2)を同定した。さらに、コンティグ1と2にコードされる151個および170個の遺伝子を推定し、コンティグ2から毒素生合成遺伝子クラスターを同定した。 本研究では、両コンティグにコードされるすべての遺伝子について、栄養条件が異なる5種の培地で培養した場合の転写レベルをリアルタイムRT-PCR法によって定量解析した。その結果、ほとんどの遺伝子の転写レベルがアクチン遺伝子(内部標準)に比べ著しく低いことが明らかとなった。また、ほとんどの遺伝子の発現が、植物中と類似した条件であるN源を含まない最少培地で誘導されること、他の培地での遺伝子発現パターンが両コンティグ間で異なることを見出した。 CD染色体の毒素生合成遺伝子領域以外について、40kb程度を順次欠失させた部分欠失変異株シリーズを作成し、新奇な病原性関連遺伝子の同定を試みた。研究を進める過程で、CD染色体にコードされる遺伝子の一部が他の染色体にも存在することが明らかとなった。そこで、上記変異株を作出するための材料として、CD染色体遺伝子をほとんど持たない非病原性株にCD染色体を導入した菌株の作出を試みた。非病原性株にハイグロマイシンB抵抗性遺伝子、イチゴ黒斑病菌にジェネティシン抵抗性遺伝子をそれぞれ導入した。なお、イチゴ黒斑病菌では、相同的組換えを用いてジェネティシン抵抗性遺伝子をCD染色体に導入した。両菌株のプロトプラスト融合によって、両薬剤に抵抗性の融合株を選抜し、融合株の毒素生産性、病原性、核型などを解析した。
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