研究概要 |
2004年、ピロリ菌が胃ムチンの血液型抗原を認識して結合することが報告され、世界に衝撃を与えた。我々は,本研究に先立ち、ヒト大腸ムチン糖鎖末端のABO式血液型抗原決定基を特異的に認識して結合するプロバイオティック乳酸菌を世界で初めて、多数発見している^<-4)>.血液型抗原を認識する乳酸菌の存在は,同じく血液型抗原を認識する病原菌の存在を強く示唆し,同じレセプター結合性を持つ乳酸菌による病原菌感染阻害が可能であると考えられる.本研究では,これら乳酸菌による腸管内での競合阻害アッセイ系の構築を目的として,ヒトABO式血液型抗原を認識して結合する腸管系有害菌の探索と同定を試み、新たなプロバイオティック乳酸菌の高度利用性ついて検討することを目的とした。 表面プラズモン共鳴(SPR)を原理とするバイオセンサーBIACOREを用いて,ヒトA抗原[GalNAc α1-3(Fucα1-2)Ga1-]付着性のヒト腸管起源有害菌を探索し、同定した.センサーチップCM5上にA抗原3糖を導入したA-trisaccharide -BSA(BSA-A)をリガンドとして固定化後,ヒト大腸標本より採取した有害菌体(アナライト)を添加し,相互作用値(RU : Resonance Unit)を測定・評価した.BSA-Aに対して,高い付着能力を有した選抜菌体について,16S rDNA配列の相同性解析およびAPISTAPH(bioMerieux)を用いた糖質利用性の解析により菌種を同定した. ヒト大腸標本より直接有害菌株(74菌株)の単離し,BSA-Aへの付着性が高い(100RU以上)31菌株を一次スクリーニングで選抜した.二次スクリーニングでは,BSA-Bとの付着性を検討し,BSA-Aとの付着量がBSA-Bとの付着量の2倍以上を示す3菌株を選抜した.A抗原を特異的に認識すると考えられるこのA型認識性有害菌3菌株を16S rDNAシーケンスにより菌種同定したところ,Staphylococcus capitis, Staphylococcus epidermidisおよびEscherichia coliであることが判明した.これらの単離株は、ヒト大腸粘液層に強固に付着したものであり、これらの競合的排除には、我々が既に単離しているヒトA型認識性乳酸菌が使用出来る可能性が強く示唆された。
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