研究課題
細菌細胞表層は、微細な構造と機能を除いて構造的・機能的に均一かつ固定的と想定される。しかし、Sphingomonas属細菌においては、細胞表層分子の再編によって細胞表層に巨大な孔「体腔」が形成されることを見出し、微生物の形態形成と細胞表層の構造と機能に関して新たな局面を拓いた。この開閉自在の体腔は、メソソームやエンドサイトーシスの形成と機能、更にはそれらの分子進化の理解にも関わる重要な内容を有している。また、本申請研究では、体腔を他の細菌に分子移植する、つまり器官の移植による大規模な細胞改変技術の確立を目指した。その結果、体腔は同じ属の細菌には効率よく分子移植できることを明らかにした。移植された細胞では巨大な体腔が形成され、アルギン酸、ダイオキシン、ポリプロピレングリコール、ポリデキストロースなど、分子サイズと分子構造を問わず体腔から丸呑みされ、細胞内で効率よく分解されることを明らかにした。環境有害物質の分解は、基本的には強い分解能を有する微生物の選択に依拠しているが、環境有害物質の分子サイズや溶・不溶的多様性に十分対応するものではない。しかし、分子移植した体腔は、低分子物質から不溶性顆粒をも含めた巨大物質を呑み込む能力を有することから、体腔の分子移植によって創成される細菌は、バイオレメディエーションの画期的な発展を促す可能性を示唆した。特に、ダイオキシン分解能を有するSphingomonas wittichii RW1に体腔を移植することにより、ダイオキシンを格段に強く分解する菌株を育種された。ただ、体腔の移植は現段階ではSphingomonas属細菌に限定されるが、新たにAgrobacterium属細菌にも分子移植できる可能性を明確にした。これにより、全ての細菌に体腔を分子育種する基本的条件の設定に目途が付いた。
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