研究概要 |
酵母細胞膜上のPma1タンパク質のクラスター化を解析するため、Cy3,Cy5標識したモノクローナル抗体で細胞を免疫染色し、アクセプターフォトブリーチング法でFRETを測定した。その結果、予想に反し多くのPma1分子はランダム分布する傾向にあった。細胞を高圧にさらすと、Pma1はランダム分布からクラスター形成に幾分移行することがわかった。しかし、共焦点レーザー顕微鏡を用いたFRET計測においては、測定誤差が非常に大きく統計処理に耐えるデータを得ることが未だできていない。新たな方向性を見いだすため、DNAマイクロアレイ法を用い、Pma1の遺伝子を始めどのような遺伝子が高圧により活性化するのかを調べた。その結果、PMA1の転写レベルは高圧下でほとんど変化しなかったが、細胞壁タンパク質をコードするDAN/TIRファミリーの遺伝子に著しい発現上昇が見られた。これらは通常の培養条件下では発現しておらず、低酸素によって誘導される。こうした遺伝子が高圧で誘導された点は興味深い。低酸素は脂肪酸アシル鎖の飽和化を促進するため、生体膜流動性の低下という観点からは高圧条件に近いと言える。さらにDAN/TIRファミリー遺伝子は低温でも誘導された。従って、生体膜の動態変化をきっかけとして、それをシグナルとする伝達経路が存在し、酵母遺伝子発現のリモデリングがなされた可能性がある。未知なる膜センサータンパク質の存在を示唆する結果であり、そのクローニングのツールとして圧力が利用可能なことを示している。
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