研究概要 |
近年,根や幹の通水性と同様に,葉内の通水性の変化も気孔の開閉に大きな影響を及ぼすことが明らかとなってきた。葉内の通水経路には大きく二つの経路,すなわち葉脈内の道管を通る経路と、道管内から葉の細胞間隙へと流れる経路に分けられ,前者は水路的役割を果たしていると考えられる。また葉脈道管中の水が葉細胞内へと移動する際には細胞膜を通るが、その細胞膜を通る水のほとんどがアクアポリンと呼ばれる膜タンパク質を通ることが明らかとなっている。葉脈とアクアポリンのそれぞれの通水経路を阻害した時の葉の通水性の変化と、それによる気孔コンダクタンスへの影響を明らかにするため、生活型の異なる常緑広葉樹のアラカシ、落葉広葉樹のコナラ、ツル植物のクズについて比較した。野外の陽葉について、インタクトの状態で3つのパターンで葉脈を切断処理し、葉脈内の通水を遮断することによって、様々なレベルに葉の通水性を低下させ、その気孔コンダクタンスを測定した。また一方、採取したシュートに塩化第二水銀溶液を吸収させることによってアクアポリンを阻害し、制御環境下で葉の通水コンダクタンスや気孔コンダクタンスの時間変化を調べた。葉脈を遮断した場合、3種ともに葉の通水コンダクタンスの低下と伴に、気孔コンダクタンスは直線的に低下し、葉の通水コンダクタンスと気孔コンダクタンスはほぼ1対1の関係にあった。一方アクアポリンを阻害した葉では,葉脈遮断した葉と同様に気孔は閉鎖し光合成も低下したが、葉の通水コンダクタンスよりも気孔コンダクタンスの低下の割合が大きく、樹種間差も認められた。こうした結果から、葉の通水性は直接気孔コンダクタンスを制限するが、葉内のアクアポリンは、葉の通水性以外に、気孔の開閉にも直接影響を与えていることがわかった。
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