研究概要 |
水産有用魚種の多くは、性成熟に伴って肉質の劣化や体色の変化がおこるため、水産物の高品質化を図るうえで大きな問題となっている。このため配偶子の形成を人為的に抑制する不妊化技術の開発が強く望まれている。本研究は、配偶子のもととなる始原生殖細胞(PGC)を標的とした新たな不妊化技術を開発する手始めとして、哺乳類で不妊効果が知られている放射線が、魚類PGCの形成・分化に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。これまでのトランスジェニックメダカ(Tanaka M., et. al.,2001)を用いた解析で、放射線照射によってPGCの数が著しく減少すること、またその効果は孵化直前ステージで顕著であることが明らかとなっている(平成18年度)。このため当該年度では、放射線照射に対してPGCが感受性を示す時期に焦点を当てて、照射線量の違いがPGCの形成・分化にどのような影響を及ぼすかを解析した。実験では、孵化直前のメダカ胚(ステージ36〜37)に異なる放射線量を照射し、各処理におけるPGCの形成・分化の状態を蛍光顕微鏡下で観察した。その結果、400Rの放射線照射で約30%の個体でPGCが消失することがわかった。さらに、照射線量(1000R〜3000R)の増加によって消失率が60〜70%に上昇することが明らかとなった。また、いずれ照射においても、完全に消失が見られなかった個体でもPGCの数の減少が観察された。他方、6000Rの放射線照射は胚発生に致死的であり、全ての個体は孵化には至らなかった。以上のことから、魚類PGCに及ぼす生物学的効果は照射時期や照射線量に依存することが明らかとなり、不妊化技術の開発に向けた基礎的知見の集積がなされた。
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