植物性飼料原料であるソルガムおよびダイズに含まれているリン酸は、70から90%がフィチン酸である。このフィチン酸は、豚および鶏などの単胃動物では、消化・吸収されないために大量のリン酸が環境中に排泄され環境負荷の原因となっている一方で、動物のリン酸不足を補うため、無機リン酸をさらに飼料に添加しているが、無機リン酸の原料であるリン鉱石は、有限な地下資源であり、50から100年で枯渇することが予想され、農業生産上、リン酸不足は重要な問題となっている。そこで、本研究では、環境へのリン酸負荷を削減し、かつリン酸資源の有効利用を図るために、穀類に含まれるリン酸の貯蔵形態を、家畜が直接飼料原料からリン酸を吸収・利用できる形に変えた新たな穀類を開発するために以下の実験を行なった。 まず、突然変異誘発剤エチルメタンスルホン酸で処理したソルガム3品種および系統の種子を平成18年5月に播種し、開花期に穂に袋を被せ自家受粉させ、10月〜11月に成熟した突然変異体から採種した種子の無機リン酸およびフィチン酸濃度を測定し、変異体から、低フィチンソルガムの選抜を行った。さらに、フィチン酸含量が普通栽培品種に比べ60から70%低い突然変異体のダイズ系統と西日本栽培品種のエンレイを6月22日圃場に播種し、収穫期の10月半ばまで、生産性や環境適応性を比較し、フィチン酸を低めたことによって収量などの生産性に影響を及ぼさないかどうかを解析した。その結果、低フィチンダイズは、発芽や初期生育はエンレイと変わらず良好であった。収穫期の子実収量はエンレイで361kg/10a、低フィチンダイズで378kg/10aであり、突然変異体ダイズは、収量、生産性および環境適応性は普通栽培品種と同程度であった、この結果から、本突然変異体は我が国の西日本に栽培・導入可能であり、この系統を原料とすることによって、家畜から排泄されるリン酸量の削減が可能であると考えられた。
|