「再生医療」は生体に存在する多能性幹細胞をある特定の器官や組織に分化させ本来の機能や構造を失ったそれら組織を補い治療する医療術である。しかし、間葉系幹細胞からの高分化型間葉系細胞(骨芽細胞、軟骨芽細胞、シュワン細胞、筋線維芽細胞など)への分化様式の全貌は未だ解明されていない。本研究の目的は間葉系の多能性幹細胞株と高分化型細胞株を樹立し、これら細胞株を用いて間葉系の分化様式を解明することである。また、種々の自然発生腫瘍の特性を解析し、未分化状態の腫瘍細胞がどのような方向に分化する能力があるかを明らかにすることである。 本年度は以下の成績を得た。 1.骨芽細胞への分化:未分化幹細胞であるMT-9に骨分化因子であるBMP-2を添加し、アルカリフォスファターゼ・オステオカルチン発現、そして石灰沈着の程度を指標として評価したところ、MT-9が骨に分化することを明らかにした。 2.筋線維芽細胞への分化:α-平滑筋アクチン(SMA)を発現する筋線維芽細胞は線維芽細胞から形成され、その誘導因子にはTGF-β1が関与する。MT-9にこの因子を添加しSMAの発現をウエスタン法と免疫細胞学的に解析したところ、MT-9が筋線維芽細胞に分化することを明らかにした。 3.以上より、MT-9は多分化能細胞で種々の間葉系細胞に分化し得ることを示した。細胞分化の研究において有用な実験系になると考えている。 4.さらに、ラットの悪性シュワノーマから培養細胞を確立し、この細胞株が本研究課題を遂行する上で有用な実験系になることを示した。 5.また、悪性中皮腫と唾液腺癌の腫瘍を病理学的に解析し、中皮腫は粘液産生細胞へ分化し、腺癌では間質に筋線維芽細胞が増殖しそれが腫瘍細胞から産生されるTGF-β1の影響を受けていることを明らかにした。
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