研究概要 |
本研究の目的は、赤血球膜上の感染受容体候補分子の構造・合成に関わる各種機能蛋白質ノックアウト(KO)マウスを活用して、バベシア原虫による赤血球感染分子機構を明らかにすることにあった。得られた成果を以下にまとめる。 1)シアル酸転移酵素(ST3Gall)KOマウス及びグライコフォリン(GPA)KOマウスを準備し、マウスバベシア原虫(Babesia rodhaini)を感染させ、致死率や原虫の増殖率の変化等をコントロールマウスと比較して観察した。その結果、ST3GallKOマウスの感染病態はコントロールマウスのそれらと有意な差は見られなかったのに対して、GPAKOマウスはマウスバベシア原虫に対して完全な耐性を示すことが明らかとなった。 2)上記2種類のKOマウスの赤血球膜上のシアル化糖鎖構造を検証した結果、GPAKOマウスの赤血球膜はGPAに加えてα2,3結合型シアル酸分子が著しく脱落していたのに対して、ST3GallKOマウスの赤血球膜上のシアル化糖鎖構造はコントロールのそれとほぼ同じであった。 3)試験管内培養を用いた成果により、シアル酸を除去した赤血球にはウシ(Babesia bovis)及びウマバベシア原虫(Babesia caballi)は侵入できないことが示された。 4)感染抵抗性を示すGPAKOマウスを用いてマウスバベシア原虫の感染実験を継続した結果、GPAKO赤血球で増殖できるマウスバベシア原虫が出現した。 これらの成果から、「GPA上に付加されているα2,3結合型シアル酸分子が、バベシア原虫が赤血球に侵入する際の宿主側感染受容体分子である」ことが示された。しかし、「α2,3結合型シアル酸分子に依存しない別の赤血球侵入経路も存在する」ことが示され、バベシア症に対する予防法及び治療法を開発していく上で有用な知見が得られた。
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