穀類の胚乳形成に関する研究は、これまで胚乳組織における貯蔵物質合成に関わる遺伝子の器官レベルの解析が主であった。最近、イネ科胚乳組織における機能性成分の利用に注目が集まっているが、胚乳形成を制御する分子機構は未だに明らかにされていない。そこで、イネをモデルに胚乳発生・分化の分子機構を解明し、その成果に基づきイネ科胚乳組織の改変による機能成分の高度な利用を目指して研究を進めている。これまでに、胚乳形成期の種子におけるトランスクリプトーム解析を行い、胚乳分化期に強く発現する遺伝子を多数得た。本研究では、それら候補遺伝子が胚乳分化とどのように関係するのかを明らかにするため、未分化状態の生きた胚乳組織へ「胚乳インジェクション法」を用いて候補遺伝子由来のRNAを直接導入し、「mRNA過剰」や「RNA干渉」を誘導することで、候補遺伝子の機能解析を行うことを目的とした。 本年度は、主に3項目の実験を行った。 【分化期胚乳の準備】胚乳インジェクション法の技術開発には「矮性イネ」を用いた。栽培条件を検討し、人工気象器内で年間を通して分化期(多核化状態)の生きた胚乳組織を容易に使用出来る状態を作ることに成功した。 【分化期特異的遺伝子の探索】イネ種子形成期に経時的に発現する遺伝子の網羅的な発現解析を行った。その解析データ(約3万種類のmRNA)から、胚乳形成期の各ステージで発現するmRNA量を比較し、胚乳分化期に特異的な発現をする遺伝子を特定し、胚乳制御遺伝子の候補とした。 【RNA干渉誘導RNAの調製】種子形成期で多量に発現する貯蔵タンパク質遺伝子の中からプロラミン遺伝子を選び、これまでの研究で「RNA干渉」を誘導することが示された遺伝子配列の一部を参考に、「RNA干渉」誘導用のRNAを合成した。この合成RNAの純度や量を検定し、「胚乳インジェクション」法に用いるために必要となる実験条件を準備した。
|