穀類の胚乳形成に関する研究は、これまで胚乳組織における貯蔵物質合成に関わる遺伝子の器官レベルの解析が主であった。最近、イネ科胚乳組織における機能性成分の利用に注目が集まっているが、胚乳形成を制御する分子機構は未だに明らかにされていない。そこで、イネをモデルに胚乳発生・分化の分子機構を解明し、その成果に基づきイネ科胚乳組織の改変による機能成分の高度な利用を目指して研究を進めている。これまでに、胚乳形成期の種子におけるトランスクリプトーム解析を行い、胚乳分化期に強く発現する遺伝子を多数得た。本研究では、それら候補遺伝子が胚乳分化とどのように関係するのかを明らかにするため、未分化状態の生きた胚乳組織へ「胚乳インジェクション法」を用いて候補遺伝子由来のRNAを直接導入し、「mRNA過剰」や「RNA干渉」を誘導することで、候補遺伝子の機能解析を行うことを目的とした。 本年度は、主に2項目の実験を行った。 【分化期胚乳への合成RNAのインジェクション】倭性イネを用いて未分化状態(多核化期)の生きた胚乳組織を準備し、実体顕微鏡下でイネ胚乳組織へ「合成RNA」をマイクロインジェクションする条件を検討した。胚乳へのマイクロインジェクションは、手法としては可能であったが、コントロールとして用いた「滅菌水」のインジェクションで胚乳組織の形態変化を誘発した。条件を検討しながら試行したが、ほとんどの胚乳組織で形態異常を引き起こした。 【分化期特異的遺伝子の発現解析】18年度に行ったイネ種子形成期に経時的に発現する遺伝子の網羅的な発現解析データ(約3万種類のmRNA)より、胚乳形成期の各ステージで発現するmRNA量を比較し、胚乳分化期に特異的な発現をする遺伝子を特定し、胚乳制御遺伝子の候補とした。その遺伝子の各組織、生育時期における発現解析をRT-PCR法を用いて実施した。
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